
フランス地方菓子紀行(4)西部編
1998年8月22日(日)<カーン〜バイユー〜サント・メール・エグリーズ〜モン・サン・ミッシェル>
この日はノルマンディからコタンタン半島を横切ってブルターニュへ移動する。そして今回のツアーの観光のハイライト、モン・サン・ミッシェルMont
St.Michelまで行く。というわけで昨晩遅かったのに、とても早起き。8時にホテルを出て朝市に向かう。が、なんと早過ぎてまだ市は立っていない。なので先に観光することに。カーンには男子修道院(Abbaye
aux Hommes)と女子修道院(Abbaye aux Dames)とがある。男子修道院はウィリアム征服王が寄進して建てたもので、現在は市庁舎として使用されている。ノルマン・ロマネスク様式の代表的建築の1つで、3つの角型の鐘楼が特長。女子修道院の方は、ウィリアム征服王の王妃マチルダが1062年に創建した三位一体教会。サント・トリニテ聖堂(Eglise
de la Trinite
)が11世紀のロマネスク様式をそのままとどめている。半月のアーチが特徴的。装飾が少なく、どっしりと力強い。内陣にはマチルダの墓があるが、中へ入る時間はない。急いで町のパン屋さんへ。かまどで焼いた色々な種類のバゲットがお
いしそう。私達はラルドン(ベーコン)入り栗粉のパン4.0FF、シリアルパン5.8FF、ライ麦のプチパン0.5FF、おねえさまのリクエストのシュケット6個4.8FFをお買い上げ。焼き立てだったのでその場で立ち食いしてしまう。ベーコン入りが香ばしくて、栗の甘さもほんのりあって一番人気。個人的には便秘によさそうなシリアルパンが気に入った。この値段とこのバリエーション。この店が東京にあったら毎日でも通いたい。次は「Meslin」というちょぴり昔っぽいお菓子屋さん。ここでりんごのタルト8FFとスペシャリテ(シロップがたっぷりのガナッシュケーキ)18FFを買う。
それから一度ホテルに戻って、具合が悪くて休んでいた方をピックアップして、今度こそマルシェへ。9:45。さすがに賑わいを見せていました。与えられた時間は45分。昼食は再びバスの中なので、食料も調達してこいとのお達し。市場は結構広い。ゆっくり回ったら1時間あっても一回りできそうにない。まずAちゃんに連れられて一目散にトゥルグルを売っていたというおばさんのコーナーへ。そこでお目当てのトゥルグル6FFと、Fromage
Normandという円形のウォッシュチーズ半分、牛乳1L5.5FFを購入。ようやく落ち着いて試食。トゥルグルは前日のものとはかなり食感が違う。こちらはねっとり糊状。6〜7時間煮込んでいるのだそうだ。そして、桑の実1パック5FFも買ってみる。バスに戻りつつ、ランチ探し。ずらりと並んだロースターで一斉にくるくる回っている鶏の丸焼きが食をそそる。でも丸ごとは食べにくい。やむなく直径1m以上ありそうな鍋で作っているパエリア2人前25FFと、丸ごとポテトのソテー10FFに決定。後ろ髪引かれながらも急いでバスに戻る。そしてバスの中では大宴会。どこで手に入れたのか、F氏は鶏のももを差し入れてくれた。そんなに食べたそうな顔したかしら。この騒ぎ、実は運転手さんはかなり嫌がっていたらしい。
次なる目的地は15、6世紀の古い街並みが続く城下町バイユーBayeux。ここにノルマンディ公ウィリアムのイングランド征服を描いた王妃マチルダのタピスリーLa
Tapisserie de Bayeuxがある。長さ70m、幅50cmのこのタピスリーは、11世紀に製作された歴史的資料であり、実際には刺繍である。1064年、死を予感したイギリス王エドワード懺悔王が、ウィリアムを後継者として指名するところから始まり、ウィリアムがヘイスティングスの戦いで、ライバルのハロルドを破るところまでが、58の場面にわたって描かれており、それぞれの場面は伝説上の動物等によって区切られている。11世紀当時のヨーロッパ風俗、文化を知る上での貴重な文化遺産。日曜日のせいか長蛇の列。エントランスではビデオを流して背景の説明をしているらしい。それに続いて、タピスリーの模写とその説明書きと思われる展示が延々と続いている。我々は時間が限られているので、前座は飛ばして(読んでもよくわからないとの
声も)いきなり実物のコーナーに進む。何人かづつ区切られて展示室に入れられる。イヤホンガイドもあったのだが、省略。想像で見るしかない。案の定なんだかよくわからなかったので、出てから説明のパンフレット(もちろん日本語版)を40FFも出して買ってしまった。入場料は7FF。バスへ戻る道すがらノルマン・ゴシック様式のノートルダム大聖堂をバックに写真を撮り、土産物屋で絵はがき(2枚で5FF)を買い、あたふたとバスに乗り込む。
そして北西に突き出したコタンタン半島のサント・メール・エグリーズSaint-Mere-Egliseにある農家博物館Ferme-Musee du
Cotentinを見学。ここは17、8世紀の伝統的な豪農の家を開放したもの。馬小屋、牛小屋、納屋からパン焼小屋、ダイニングルーム、ゲストルーム等があり、庭にはシードル用りんごプレス臼もある。見学料15FF。受付には絵はがきコーナーがあり、食関係の絵はがきが勢揃い。中には売り切れの品も。1枚5FF。私は6枚購入。
それから今回の観光のハイライトであるモン・サン・ミッシェルへ。年間200万人以上の観光客が訪れるフランス有数の名勝である。ノルマンディとブルターニュの境に位置し、海岸線から1kmほど沖に突き出た陸続きの島である。ヴィクトル・ユゴーやモーパッサンらが“幻想的で、驚異的”とたたえた僧院がある。行政区分上ではノルマンディ地方に属するが、ブルターニュも自分達のものだと譲らないらしい。ガイドブックでもブルターニュの方に入っていたりする。16:30に現地ガイドの方と待ち合わせ。ノルマンディをぐるりと回ってくれたバスとはここでお別れ。ガイドさんと無事に出会って、観光開始。島の起源は8世紀初めにさかのぼる。当時の司教だったオベールはサン・ミッシェルの夢のお告げにより、トンブ山と呼ばれた高さ約80mのこの地に礼拝堂を建立。その後11世紀から12世紀にかけてロマネスク建築の僧院が、13世紀にはゴシック様式の建築が建てられ、ベネディクト派の巡礼の地として栄えてきた。15世紀には百年戦争に巻き込まれ、フランス革命の際には政治犯の牢獄として使用された。その後1874年に国の歴史的記念建造物に指定され、現在では国立博物館となっている。さすがに入口には行列ができている。ガイドさんに従って、急な階段を登ってまず西のテラスに出る。渡ってきた海の中のくねった1本道が見える。鐘楼の上に立っているのは金箔のミカエル。19世紀末のもの。サン・ミッシェルは足元に龍がいて、悪魔を退治するといわれている。左手にははかりを持ち、最後の審判で天国か地獄かを決める役割がある。0さんはすかさず、お菓子とパンの神様でもあるのよと付け加える。突然興味を持つ私達。緑の中庭の周りを127本の石柱が取り囲む、木造屋根の回廊は13世紀のゴシック。黙想のための飾りが施されている。花や蔦の模様に混ざって彫刻家の横顔が紛れていて、おかしい。修道院の食堂も13世紀のゴシック。光を取り込むため、ステンドグラスは単調。ベネディクト派は、食べる間一言も発してはならないという規律があるという。北側には11世紀の回廊と、病院→チャペル→埋葬の場と並んだ部屋、囚人が荷の積み下ろしの為6人がかりで回す木の滑車のある牢獄がある。南側には11世紀のロマネスク教会、食堂、1日6〜8時間写本をするという勉強室、図書館、貴賓室等がある。18:30前に観光を終え、グランド・リュと呼ばれるメインストリートに出る。
夕食は「La Mere Poulard:ラ・メール・プーラール」で名物オムレツを食す。ここは1888年に巡礼者に温かいものを出しているうちに有名になってレストランとなった店。今ではホテルにもなっている。世界各国の有名人のサインが貼ってあるが、日本人のものは天皇とユーミンだとか。店先では赤いボレロを着たおじさんが淡々と卵を泡立てている。時々カメラ目線になってこちらを見る。しばらくすると口笛を吹きながら、暖炉で焼く。時間があったので、道の両側に立ち並ぶ土産物屋を見てまわる。そして19時オムレツディナー。早目に着いたのでワインリストを見ていたら、ちゃっかり観光地していて値段が高目。なので、ワイン飲みたいグループと飲めないグループに別れて席をとる。メニューは、
○オムレツ
○仔羊(プレサレ)のパイ包み
○りんごのタルト

Marquis de Saint-Estephe (AC Saint-Estephe) 1995、260FF
ワインで乾杯していると、いきなり直径60cmはありそうな巨大な半月のオムレツが銀のトレーにのってやってくる。その大きさにおののいている我々にお構いなく、テーブルの脇に場所を定めると、スプーンとフォークでざくざくと4つに切って取り分けてくれる。中からムース状の卵がとろーっと出てくる。あ、写真!写真!あわててシャッターを切る。そしてお皿にはこれだけ。何の付け合わせもない。これって前菜??空気をかなり含んでいるので、ふわふわでおいしそうといえないことはないが、量が多い。そして単調。もう少し何とかしてよね、という感じ。お次は仔羊。ノルマンディの海風にあたって育つこの地方の羊は、塩味がするとか。それを感じるほど繊細な舌はもちあわせていないが、べとつくパイ生地には少々不満。ま、観光地だからね。付け合わせはトマトやズッキーニときのこをソテーしてプリン型で形を整えたもの。デザートはりんごのタルト、キャラメルソース。パイ生地で予想のついた通りの出来栄え。でも外見はとてもおいしそう。本場ものですから。コーヒーでほっと一息。終わってみれば、誰か全部食べた人いる?という状態でした。
外に出てみるとやっと日が沈んだところ。白んできた空とほんのりとサーモンピンクの夕焼け。ライトアップされたモン・サン・ミッシェル。幻想的な世界に、不釣り合いなほど元気な私達。あたりはどんどん暗くなっていき、行きとは全く違った表情を見せてくれたモン・サン・ミッシェルに、感謝。そしてバスに揺られて、サン・マロへ。長い1日であった。