フランス地方菓子紀行(3)南部編

1998年8月24日(月)ニース〜エクサン・プロヴァンス〜マルセイユ>

朝、リゾート気分一杯のニースでの滞在を終え、バスにて次の目的地エクサン・プロヴァンスAix en Provenceに向かう。プロヴァンスはお菓子面ではカリソンを筆頭に、オレンジの花の水を使ったお菓子やパンがあり、期待できる。歴史的にみると、プロヴァンスはイタリアとスペインに挟まれた交通の要所であり、戦争が絶えなかった。が、幸いにも中世の街並みと共に、あちらこちらに古代ローマの遺跡も残されており、ローマ帝国の栄光を伺うことができる。また、眩しい陽光に魅せられてこの地を訪れた画家も数多い。さて、バスはトイレ休憩をはさんで、ひたすら西へ進む。車窓から、セザンヌが描いたサン・ビクトワールが見える。F氏(添乗員)の話によると、丘の上が平らなのでローマ軍との戦場になったそうだ。また、この辺りのぶどう畑には機械が導入されているという。エクサン・プロヴァンスは人口13万人の街で、12世紀から大司教座も置かれるプロヴァンスの首都として繁栄した。セザンヌがこよなく愛し、現在も大学があり、若い人が多く集まる文化の香り高い都市。メインストリートのミラボー通り(Cours Mirabeau)のプラタナスの並木や立ち並ぶカフェは、何度も日本の雑誌に登場している。

到着後、本来のお菓子紀行の姿に戻り、まずはお菓子屋を探す。ユニヴェルシテ広場近くでお菓子・パン屋を発見。なかなかしゃれた店構えで、近所の親子連れ(お父さんと女の子2人)が買い物に来たりしている。中には、素朴な田舎パンや、アラレ糖のたっぷりかかったフガスや、シャンティ(生クリーム)入りシュークリーム等がある。私達はそこでねっとりした食感の松の実入り三日月型焼き菓子Pignons Croissnats(10FF)とチーズ入りフガスFougasse Fromage(10FF)を買う。

そして、エクサン観光の目玉、サン・ソヴール教会(Cathedrale St.Sauveure)へ。鐘楼がシンボルで、4〜18世紀までの、多くの建築様式がある教会である。ファサードだけでも3つの建築様式が見られる。柱は、古代ローマのコリント式。上にある窓はバロック。そして、アーチは11世紀のロマネスク。サンピエトロが石の聖書を持って立っている。中には入らず、17世紀の大学の前を通り、ブルーの壁にタルトの絵が描いてあってかわいらしいタルト屋さんが閉まっているのを横目で見、一同、お土産物屋の前で固まる。買い物タイムを頂き、私は大急ぎで絵はがきを買う。5FFx12枚。そしてその先に再び、お菓子屋「Andre Genis」。大きなガラス張りの立派な店構えで、看板にドラジェとカリソンの工場と書いてあり、カリソンのポスターが飾ってある。サーモンピンクの店内には、プロヴァンス銘菓が並んでおり、奥が工場になっているが、この日は誰も働いていなかった。私はそこでお土産用にカリソン(4個入り、プラスチックのケースに入り21FF)を購入。M嬢はたまごボーロのような、プロヴァンス柄のビニールでラッピングされたエクスのビスケットBiscotin D'Aixがお気に召し、お買い上げ。みんなに振る舞ってくれる。オレンジの花の水で香りをつけた固めのビスケットで、中にヘーゼルナッツが入っている。結構おいしい。1袋42FF。ところでカリソンは、本場ものはカリソン・デクスCalissons d'Aixといい、AOC(原産地表示)により品質が保証されている。製法は皮をむいたアーモンド40%、メロンの砂糖漬け(入っていないこともある)とオレンジなどの果物のシロップを合わせて60%、これをベースト状に練り合わせ、オレンジの花の水を加えて角の丸い菱形に抜くのが基本。卵白と粉糖を合わせたグラスロワイヤルをかけて仕上げる。

お菓子を手に入れ安心したところで、ランチタイム。「Coguet Bar」という生ビールを置いている店に入る。12:15。テラスに座り、例によって、サラダ・ニソワーズ、サラダ・ペイザンヌ(ベーコン、オリーヴ、トマト、ロックフォールチーズ、クルトン、エンダイブ、レタス)、サンドイッチのパテ、ロックフォール、ハム入りを頼んで、シェアする。1人38FF。飲み物はやっぱりエクサンのロゼ(Domaine de Calarette, AC Cotes de Provence 70FF)。サラダはちょっと元気がないかも。サンドイッチは、チーズといったらチーズしか入っていないので、各自分解して、サラダも入れ、ミックスサンドにして食べる。ここのトイレが変わっていて、一瞬どちらを向いていいのだかわからない。前の人から報告を受け、みんな“前だよ、いや後ろだよ”と大騒ぎ。で、入ってそのままの方向で座ちゃだめなの?F氏のコメントは、ドア側を向くのが正解?!と…。侵略を繰り返した国では、いかなる時も背を向けないとか…?

昼間っからワインを飲んでご機嫌になって、時計塔をくぐって、17世紀の市庁舎がある広場へ。カフェでは日に焼けた若者達が、お茶をしている。広場を過ぎ、ちょっと古ぼけたカリソン屋「Parli」を見つける。が、みんなちょっと入って、すぐ出てきてしまう。その先のおしゃれな生地屋は、真剣に見たというのに。それから、18世紀の噴水のあるアルベルタ広場で写真を撮って、ミラボー通りへと向かう。この通りには、さすがに派手めな「Bechard:ベシャール」というお菓子屋がある。お菓子はというと、砂糖漬けのフルーツをあしらったタルトや、オペラ風のチョコレートがけのケーキとか、それなりにデコレーションしてあるのだが、どうも手が伸びない。悩んだ末、チョコレートがけのカリソンの味を見たいとの意見で一致し、みんなで1袋(23FF)買うことにする。ほかのケーキはパス。

大噴水ロトンドが中央に建つジェネラル・ド・ゴール広場を通ってカリソンの工場があるという場所を探すが、残念ながら閉まっていた。中途半端に時間が余ってしまい、バスとの待ち合わせのジェネラル・ド・ゴール広場に戻って、一同呆然。お茶するほどの時間もなく、あまり遠くに行ってもいけないし、結構日差しが強いし、というので、木陰でおしゃべり。暇つぶしに公衆電話で日本に電話する人も。15:00バスに乗り込み、この日の宿泊地マルセイユMarseilleへと向かう。30分ほどで到着。

マルセイユは、紀元前600年から港町としての歴史を持ち、フランスの玄関として栄えた。フランス第2の都市である。ガイドには“町特有の治安の悪さで有名だったが、ここ数年で健全な観光地へと移行している”とあるが、いやいやまだなんとなく雰囲気が悪い。歩いている人も人種が違うような気がする。それは各自注意するとして、我々の大きな目的は、ブイヤベースBouillabaisse(サフラン風味の魚介の煮込み)。そのためにエクサンに泊まらず、わざわざマルセイユまで戻ったのだ。マルセイユに到着後そのままバスで、丘の上のノートル・ダム・ド・ラ・ギャルド寺院(Basilique de Notre Dame de la Garde)へ行く。1853〜1864年に建てられたロマネスク・ビザンチン様式の白い寺院で、マルセイユのシンボル的存在。46mの鐘楼に立つ黄金色の聖母マリアが、街の人々と港を出入りする船を見守ってきた。内部には神に感謝して捧げられた、おびただしい数の額が納められている。テラスからは360度の素晴らしい眺望が楽しめるのだが、とにかくすごい風。塀にしっかりつかまって、市街や“岩窟王”の舞台になった海に浮かぶイフ島を見渡す。海は真っ青。風に飛ばされそうになりながらも、写真を撮り、土産物コーナーに走り込む。そこで時間までプロヴァンス料理の作り方なんていう本を見たりしていた。

それからバスで旧港沿いのホテルへ。17時少し前にチェックイン。このホテル、200年の歴史のある重厚な建物で、ショパンやジョルジュ・サンドも宿泊したという。夕食まで時間があったので、じっとしているのもなんだし、F氏はあまり街を歩かない方がいいと言うし、で、まずは両替し、すぐ近くのショッピングセンターに行くことになった。この両替所で、おじさんはみんなに地元のサッカーチームのピン・バッジをくれた。ショッピングセンターはデパートとスーパーマーケットが合体したような感じ。せっかくだからと上から順番に見ていたら、文房具売場の端に、なんと、プリクラ発見!機械は日本製だが、絵柄はフランス語のものもある。これは撮らなきゃということで、1番フランスっぽいと思われるシャンパン模様で、カシャリ。シールは日本のものより一回り大きい。20FF。ひとしきり盛り上がり、あとは1Fの土産品コーナー&食料品売り場で、名々のお買い物。プロヴァンス・ナベットという工場製の銘菓(1袋19.9FF)、瓶詰めのキャビア・オーヴェルジンCaviar d'Aubergines(焼ナスのたたき、オリープ油風味、別名庶民のキャビア:18.9FF)、黒オリーヴ(7.7FF)、山羊チーズのペラルドン(7.95FF)、コントレックス(1.5L:3.3FF)、そして安さに惹かれてワイン2本(AOCエクサン・プロヴァンスの赤Ch. de Fonscolombe1997年:17.5FFとバンドールBandolの赤:22.5FF)を購入。チーズ売場のおねえさんに、“旅行者?”と尋ねられた(多分)ので、うなずくと、フランスの地図をくれた。ラッキー!もしかしてマルセイユの人って、いい人達?職場へのお土産も買え、ワインも(実はまだニースで買ったのが1本残っている。いつ飲むんだ〜)チーズも仕入れて、かなり満足。ホテルに戻って、期待のブイヤベースに備える。M嬢は、ブイヤベースがこの旅1番のお目当てとまで言い切る。

F氏お薦めのその店は、ホテルからも近い。20時「Chez Loury:シェ・ルーリ」着。入口に日本語のメニューがあり、テラスには日本人のグループが。ちょっと嫌な予感。あとでガイドを見たらしっかり載っていて、シェフは来日経験があるとか。私達がお菓子めぐりをしていると知って、何種類ものタルトを焼いていてくれた。これには感激。アペリティフにアマンディーヌを白ワインで割ったものが出される。アーモンドの香りが白ワインとよく合う。そして前菜はラスカスというかさごの一種とアンチョビのマリネ。ニンジンとレタスであえてある。生もの大丈夫かなあ。それにちょっと量が多め。そしてメインのブイヤベース。正式な食べ方は、まず、スープだけが出てくるので、クルトンを浮かべ、好みでルイユ(アイオリ、つまりにんにく入りマヨネーズに唐辛子とサフランを加えたもの)を入れて食べ、続いて魚だけを食べ、2度おいしいと予習していったのだが、一緒になって出てきてがっかり。ブイヤベースは、地元でとれた新鮮な魚を4種類以上使うのがお約束だが、ここでは、かさご、アナゴ、ほうぼう、たらなど5種を使用、それに輪切りのじゃがいも、ムール貝、沢カニを入れ、香味野菜とサフランで煮込むとのこと。

  

合わせるワインはCassisの白(カシと読む。ワインの教科書にもカシスと書いてあったりするが)、Domaine Caillol 1997年。酸味があってすっきりしている。お店の方によると、アカシアやレモンの香りだと。ブイヤベースは期待が大きすぎたのか、しょせん観光客相手の店だったのか、お味の方はいまひとつ。しかも段々気分が悪くなってくる。飲み過ぎなのかとも思ったが、隣のNさんの顔も青くなってきた。さてはさっきの魚があやしい。無理矢理ラベンダーとフェンネルのソルベを口に流し込んで、郷土菓子シリーズのナヴェット、ピティヴィエ、カリソンは、勝手にお持ち帰りにして、走るようにホテルに戻る。お菓子はちゃんと食べたかったのだけど。300FF。この晩M嬢は、そのままダウンしている私を横に、1人で不気味な(古いホテルだからね)バスルームに入ったのだそうだ。

  


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