
フランス地方菓子紀行(1)東部編
1996年8月23日(金)<ランス〜バール・ル・デュック〜ナンシー>
ランスReimsは、パリの北東150km、シャンパーニュ地方の中心都市。5世紀末、フランス初代王クロヴィスがここランスで洗礼を受けて以来、フランス王は、ランスで戴冠式を済まさなければ、正式な王とは見なされないといわれてきた。そんなこの国随一の格式を持つこの寺院の町は、第1次世界大戦でほとんど破壊され、第2次大戦では、アイゼンハワーの全ドイツ降伏の申し出を受け入れた場となる。朝、爽やかに目覚める。快晴。向かいのお菓子屋さんのショーウインドウには、袋に入ったピンクと白のフィンガービスケット“ビスキュイ・ド・ランスBiscuit de Reims(ランス発祥の、長方形の小さいビスケット。軽くてさくさくして、フィンガービスケットに似ている)”が。でも気づいた時には遅かった
。バスは出発。ランス大聖堂(Cathedrale de Notre Dame)へ。13世紀早々に着工されたゴシックの寺院で、3段で構成された端正な正面には、左右対称に2本の塔が立ち、外側の至る所に彫刻が施されている。特に正面中央扉右側壁の4体の立像(受胎告知、聖母訪問)は、ゴシック最盛期の傑作といわれている。西側外壁の「微笑む天使」「マリアの従者」「聖ヨゼフ」等、いずれも秀作。建物の平面図は完璧に近いシンメトリー。ステンドグラスも見事で、シャガールの絵がモチーフになったものもある。一角に軍旗を背にしたジャンヌ・ダルクの立像がある。百年戦争の時、シャルル7世は彼女の功績によって国王になり、ここランスで戴冠式をしている。
天使につられてこちらも微笑んで、「Delices Champenoises:デリス・シャンプノワーズ」という店でブッション(コルクの栓)型のチョコレートを買う。お土産用にきれいに箱詰めされているものや、グラム売りがある。種類はマール・ド・シャンパーニュといって、シャンパーニュの搾りかすで作ったブランデーと、プラリネと、ラムの3つ。9個購入(20FF)。フォシェ社ビスキュイ・ド・ランス(1袋20FF)も購入。フランス人はこれをシャンパーニュに浸して食べるのだそうだ。おしゃれなのか、子供なのか、理解に苦しむ。
次は「G.H.MUMM:マム」のカーヴ(酒蔵)見学。王政復古の声がこだまする1827年、ドイツ人のマム兄弟によって、ここランスに創立されたシャンパーニュ会社である。シャンパーニュはシャンパーニュ地方で、伝統的な製法(メトード・シャンプノワーズ)で炭酸ガスを含ませた発泡性のワインにのみ与えられた名称である。通常シャンパーニュは各年のワインをブレンドして作られるためヴィンテージはつかないが、とりわけぶどうの出来の良い年の一部はブレンドされず、ヴィンテージがつく。これは通称ミレジメと呼ばれる。
<シャンパーニュの製法>
目減りした部分にリキュール・デクスペディション(砂糖とオールドワインを配合したもの)を加え、栓をする。“門出のリキュール”と呼ばれるこのリキュールの糖度によってBrut(辛口)からDoux(甘口)までの味わいが決まる。最後に試飲。係の人がつけていたボトルのデザインのピン(30FF)と、シャンパーニュ(ブラン・ド・ブラン:160FF)を購入。旅は道連れとはいうものの、おかげで、ずーっと重たい思いをすることとなる。
午後、ランスからバスをとばして、ロレーヌ地方のバール・ル・デュックBar-Le-Ducへ。目指すは、ルレ・デセールというフランスでもかなり優秀なレベルのお菓子屋さんの協会に属する指折りの菓子職人がいる「Au
Palet D'Or:オ・パレ・ドール」。途中高速のインターでランチタイム。インターといっても馬鹿にしてはいけない。ワインやデザートも充実した立派なカフェテリアである。これからお菓子を食べに行くというのに、「おいしそう」とプリンまで食べてしまう。お店に3時に到着。作業台の上にお腹がぷよんと乗ってしまうシェフ、アンドレ・コルデルAndre
Cordelさんのデモンストレーションを受ける。同じ体形のマダムと息子さん。お菓子に携わるとこんな体形になってしまうのか、とちょっと不安になる。でも、作り出されるお菓子はとても繊細。教えて頂いたのは:
ディジョン名物のパン・デピスとクレーム・ブリュレを使ったチョコレートケーキ“ル・サン・ニコラ”は工夫されていて、見た目も美しい。この地方の銘菓ヴィジタンディーヌ
(フィナンシェに似た円形または楕円型の、アーモンドと卵白を使った焼菓子)はこんがりとしておいしい。デモの途中でミラベルのシャーベットにミラベルのリキュールをかけて出して下さったが、ほんの一口でほろ酔い気分になってしまった人もいる。人の分まで飲んでしまったのは、私…。試食もそこそこに、お店の方で数少ないグロゼイユのタルトTarte
Groseille(13FF)と、ミツバチ模様のパラフィンに包まれたマレショーというチョコレートを買う。さらにおみやげにと先程のヴィジタンディーヌとこのチョコを頂いた。鳥の羽根で1つ1つ種をとるという白グロゼイユのジャムは、我々の中で争奪戦、売り切れてしまう。赤と白(白が特に貴重)のセット売りしかなく、とてもお高い(4,000円位)もの。

そしてバスでナンシーNancyへ向かう。ロレーヌ地方の中心都市ナンシーは、18世紀に古典様式の建築物で一世を風靡し、19〜20世紀にかけてはアール・ヌーボーの発祥地として注目を集めた。街には18世紀からの芸術的遺産が数多く残されている。バスの中から、日本でおなじみ「ブラッセリー・フロ」を発見したのだが、夕食はホテルのそばのイタリアン。せっかくのフランスなのに、初日いきなり他国の料理なんて。しかも、イタリアン。マジシャンのようなウエイターが印象的。モッツァレラとトマト、アーティチョークのカレーソース、シーフードサラダ、イカスミのスパゲティ等、典型的なイタリアンメニューをシェアする。案の定パスタは茹で過ぎで、うどんのよう。食後気を取り直して、街の中心、ロココの名残りを残すスタニスラス広場(Pl.Stanislas)へ行き、鉄細工が施された噴水の前で写真を撮る。スタニスラス1世は元々ポーランドの国王だったが、ロシア軍に追われてフランスに亡命した際、ロレーヌ地方を譲り受けて統治した。彼の命令でナンシー生まれのエマニュエル・エレが設計したのが、この広場。まわりを囲む屋上に彫刻の並ぶ市庁舎やホテルといった建物が、幻想的にライトアップされている。